100均のおもちゃとギアと慣性能率
100 均へお買い物に行ったら懐かしいおもちゃを見つけてうっかり買ってしまいました. 勢いをつけると直感よりも長い間走り続ける車のおもちゃです. 動画をツイートしておきました. これです.
勢いをつけると走り続けるおもちゃありますよね。 pic.twitter.com/Et3yecqmt5
— Actat (@Actat85) 2019年5月20日
今更ながら原理を理解して嬉しかったよというお話です.
結論3行
- 中に入っているのはフライホイールとギア
- ギアを使うと慣性能率を大きく見せられる
- 多くのエネルギを蓄えられるので長く走れる
分解
ねじを外して開くと,ギアとおもりがあって,他は空洞でした. ギアで慣性能率を稼いでそこにエネルギをためてるわけですね. ここから先は何が起きているのかわかりきったことを丁寧に書いていきます.
ギアと慣性能率
\(N\)倍のギアを使うと慣性能率は\(N^2\)倍大きく見せられます. タイヤの慣性能率\(J_{\rm t}\)とフライホイールの慣性能率\(J_{\rm f}\)の関係を考えます. ギアでつながっているのでバックラッシを無視すると速度の比は一定で,\(\omega_{\rm f}=N\omega_{\rm t}\)となります. また,タイヤとフライホイールに加わる作用反作用のトルクを\(\tau_{\rm t}\),\(\tau_{\rm f}\)とし,タイヤに外から加わるトルクを\(\tau_{\rm i}\)とします. ギア効率を 100%とすると,\(\tau_{\rm t}=-N\tau_{\rm f}\)です. タイヤとフライホイールの運動方程式はそれぞれ
$$ J_{\rm t}\dot{\omega_{\rm t}}=\tau_{\rm t}+\tau_{\rm i} $$
$$ J_{\rm f}\dot{\omega_{\rm f}}=\tau_{\rm f} $$
となります.
これまでに出てきた式を整理すると
$$ \left(J_{\rm t}+N^2J_{\rm f}\right)\dot{\omega_{\rm t}}=\tau_{\rm i} $$
となり,\(J_{\rm f}\)が\(N^2\)倍大きく見えていることがわかります.
手で勢いをつけると
$$ \int_0^t\tau_{\rm i}\omega_{\rm t}dt=\int_0^t\left(J_{\rm t}+N^2J_{\rm f}\right)\omega_{\rm t}\dot{\omega_{\rm t}}dt=\frac{1}{2}\left(J_{\rm t}+N^2J_{\rm f}\right)\omega_{\rm t}^2 $$
のエネルギが蓄えられることになります.
直感との差異
直感よりも遠くまで走っていくことの説明を考えていきます. 正しい減速度の大きさは,摩擦トルクの大きさを\(\tau_{\rm d}\)とすると
$$ \frac{\tau_{\rm d}}{J_{\rm t}+N^2J_{\rm f}} $$
になります. ギアとフライホイールは内部に隠蔽されているので,直感的には減速度が
$$ \frac{\tau_{\rm d}^*}{J_{\rm t}^*} $$
になると予想されそうです. 予想した減速度と実際の減速度の比は
$$ \frac{\tau_{\rm d}^*}{\tau_{\rm d}} \frac{J_{\rm t}+N^2J_{\rm f}}{J_{\rm t}^*} $$
になります.
上の写真をよく見るとわかるのですが,実物はギアを 3 段通しており,数えていませんが全体で 10 倍程度のギア比があると思われます. \(J_{\rm t}\)と\(J_{\rm f}\)は同じオーダーでしょうし,\(\tau_{\rm d}^*\)や\(J_{\rm t}^*\)を桁がずれるほど大きく間違えることはないでしょうから,減速度をおよそ 100 倍間違えて予測していることになります. 本当はギアの効率の分損失が増えるので,思ったより 100 倍減速しないなんてことはないと思いますが,思ったより遠くまで走ったという感覚を得るには十分なくらいは残りそうだと思います.
余談
実はフライホイールの部分にワンウェイクラッチが入っていて,壁に向かって走り続けようとしてもギアが壊れないようになっているみたいでした. 「100 均,侮れないもの」と思います.
芸が細かい。 pic.twitter.com/ln6wT11hrO
— Actat (@Actat85) 2019年5月20日